労働者の能力不足を理由とする解雇について
2026/09/01労働者に能力不足がある場合、労働者の労働の提供には、不完全履行があります。
もっとも、同不完全履行があるからといって、直ちに、労働者を解雇することができる訳ではありません。
労働者を解雇する場合、解雇権濫用法理が適用され、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇は、その権利を濫用したものとして、無効となります(労契法16)。
では、労働者の能力不足を理由とする解雇は、具体的にどのような場合、認められるのでしょうか。
ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京高判平成25年4月24日)は、就業規則の「社員の自己の職責を果たす能力もしくは能率が著しく低下しており改善の見込みがないと判断される場合」という解雇事由の解釈に関し、
① 「当該労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か」
② 「使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か」
③ 「今後の指導による改善可能性の見込みの有無」
等の事情を総合考慮して決すべき、だと判示しました。同判事示は、具体的にどのような場合、労働者の能力不足を理由とする解雇が認められるかの参考になるものです。
※ 結論として、解雇は無効とされました。
また、セガ・エンタープライゼス事件(東京地決平成11年10月15日)は、就業規則の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」という解雇事由の解釈につき、
「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないというべきである」と判示した上で、
対象となる労働者の人事評価が下位10%という点については、絶対評価ではなく相対評価であること、体系的な教育、指導を実施することで、労働能率の向上を図る余地があるというべきこと等を考慮し、
解雇を無効としました。
他方、日本ヒューレット・パッカード事件(東京高判平成25年3月21日)は、日本5年にわたる指導を行っても、全く改善が見られなかった事案において、解雇を有効としました。
労働者の能力不足を理由とする解雇については、職務内容、地位等が明確に特定されて中途採用された労働者(職種限定を超えるような立場で中途採用されたことが必要。)なのか、そうでないかにより、労働者の能力不足を理由とする解雇が認め易いかに関し、強弱があります。
前者の場合、同解雇は認められ易いといえます。
ドイツ証券事件(東京地判平成28年6月1日)は、上級の専門職として、特定の職種及び部門のために即戦力として、好待遇で中途採用された労働者の能力不足を理由とした解雇に関し、期待された能力を有していなかった場合には配転や手当の引き下げといった解雇回避措置をとらなくても、解雇は有効であるとしました。
因みに、ブルームバーグ・エル・ピー事件は、「労働者の採用選考上……格別の基準を設定したり、使用期間中……格別の審査・指導等の対応を行う等の措置は講じていないと認められること」から「社会通念上一般的に中途採用の記者職種限定の従業員に求められると想定される職務能力との対比において、……労働契約上、これを量的に越え又はこれと質的に異なる職務能力が求められているとまでは認められない。」としていることから、後者に当たると思料されます。セガ・エンタープライゼス事件も事案から後者に当たると思料されます。
以上からすると、労働者の能力不足を理由とする解雇を行う場合には、慎重な判断が必要になりますので、ご注意下さい。




